平野啓一郎「マチネの終わりに」

「ある男」を初めて読んでから平野啓一郎が気になって、図書館に予約をしていたのですが、映画が公開されたりして人気だったのかやっと回ってきて読みました。

男女の物語ではあるけれど、恋愛というより、読み終わってもう一度読み返した序文にあったこの言葉がぴったりだと思いました。

「魂の呼応」

知的にも芸術的にも倫理的にも世界トップクラスの精神 - 魂 - を持つ、孤高のふたりが出会って、確信的な交信をしてしまった。そのことは、決定的に「忘れ得ぬ」ものになった。

ふたりはそれぞれ、優れた論理・推察力でその現象についてきちんと理解して、自分の気持ちを整理しようとするけれど、「忘れ得ぬ」ものは、忘れられない。

結婚するとかしないとか、偶然のいたずら、嫉妬・別の愛の形による行為があり、やっぱりふたりは...、そういう恋愛物語のありきたりの展開の流れがありながら、この作品が、他のラブストーリーと一線を画すのは、その「魂の交流のゆくえ」について語られているところだったような気がする。

その魂たちが浮遊する空間には、イラクの問題、PTSD、民族問題、リーマンショック、演奏家のスランプ、国際結婚など、いろいろな問題が存在するのだけれど、それらは、奥深いところがきちんと手抜きなく理解された形でディテールをもって描かれているので、作品にしっかりとした繊細な奥行きのある質感を与えている。

引用される音楽や文学、ふたりの思考、言葉遣い、思いやりには、真に優れた個人が持つ貴高さ・品格があって、それがまたこの作品の美しい魅力にもなっていると思う。



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