ダラバッコの季節

 Joseph (Giuseppe) Marie Clément Ferdinand dall' Abaco. 1710年から1805年まで生きたこの人の11曲ある無伴奏のカプリチオ。3年前に初めて1番に触れてから、ひとつずつ折に触れて練習し発表会で弾かせていただきながら時間が経ち、今、9番と10番を練習していて、明日23日と26日の発表会で弾かせていただきます。

 今回この2曲の譜読みを始めたのが1か月あまり前だったのですが、初めて譜面を見て弾いたとき、ほんとうにただ弾いただけなのに、ふわっと、「うわぁダラバッコだ」という空気が広がって、「ダラバッコの季節」と思いました。12月にいつもバロックヴァイオリンの先生の発表会で弾かせていただいていて、ちょうど木々が色づくころに私は毎年ダラバッコを練習していることになっていたのです。 

ダラバコというか、ダラバッコというか、ダラバーコというのか、そしてこの超長いファーストネームのどれをとればいいのか。お父さんも音楽家で曲をたくさん残しているので、ファーストネームを記す必要はあるのです。 名前から想像できるようにイタリア人で、ベルギーのブリュッセルに生まれて、バイエルンの宮廷音楽家を務め、晩年はイタリアで過ごしています。当時名の知れたチェリストで曲も残している人です。 

この無伴奏のカプリチオしか弾いたことも聴いたこともありませんが、本当にシンプルな造りなのですが、和声的な色彩が素晴らしく、私が心から愛している曲です。今まで10曲弾いたことになるのですが、どの曲も魅力にあふれていて、驚くほどはずれがない。チェロの無伴奏曲と言えば、バッハのチェロ組曲が圧倒的に有名ですが、このダラバッコのカプリチオは広がりのある空気と光に満ちていて、私は決して音楽的にバッハにひけをとらない魅力を持つ作品と思います。同じバロックではあるけれど、バッハとはまた全然違う世界観を感じます。 

ダラバッコのカプリチオに触れていると、大きな銀杏の樹が透き通った晩秋の光をすべて集めて黄色に輝くその立ち姿を思い浮かべるし、縁側での日向ぼっこのような温かさを感じ、何でもない日常がどんなに幸せなものなのかということを考えてしまいます。 

カデンツアはなぜこんなに美しいのか。ちょっとした悪ふざけのあとの笑い。暖かい抱擁。小さな路地を通った先の秘密の場所への導き。告白。やっぱりここだよね。カデンツアは決まり切っていることをどう言うかというところに関心があるから美しいのではないかと、そう最近思い始めています。

見かけ上はとても風通しのよい譜面から、いろいろな語らいや微笑みや目くばせ、嘆きが見つかって、それらが見えるように弾こうとすること、それにふさわしい色彩とラインを描こうとすることが、練習としてすることで、手が痛いので、毎日少ししかできませんが、本当に楽しい作業です。 

まとまらなくなるのを承知で書くと、ダラバッコを練習していると、なぜか小学校のときの友達のタカハシナオコちゃんのお家の台所を思い出すのです。なぜなのかはまったく不明だけど、ふとそこを思い出す。他の曲では出てこないのに、不思議です。 

明日23日は20数年ぶりに再会したお友達のピアノの発表会でこのダラバッコをひとりで弾かせていただき、他にそのお友達のピアノとエルガーの「愛の挨拶」とショパンの「ラルゴ」(チェロソナタ第3楽章)、ピアノの先生と「ナウシカ・レクイエム」(先日私がチェロとピアノの曲にしたもの)も弾かせていただきます。  

もしお近くにいらしたら覗いてみていただければとても嬉しいです。  

12/23(日)立川アイムホール
15:40過ぎ頃: エルガー「愛の挨拶」と「ナウシカ・レクイエム」
18:40過ぎ頃: ダラバッコ「カプリチオ」no.9 & no.10とショパン「ラルゴ」  

12/26(水)初台オペラシティ近江楽堂 
 15:00 ダラバッコ「カプリチオ」no.9 & no.10

 以上2つとも入場無料です。

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